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生命の危機か、企業の危機か(english)  2001.11.16 - written by ipweb analyst -


先日特別宣言を発表して終了した世界貿易機構(WTO)の発表には発展途上国がAIDSに関する薬を安価に購入できるよう配慮するという趣旨が含まれていた。AIDSの広がりに苦しむ発展途上国にとっては喜ぶべき世界的な動きと言える。

しかしドーハに集まった全てのWTOメンバーがその宣言を手放しで喜んでいる訳ではない。AIDSなどに効果 的な薬物の特許を持っている企業にとって、今回のWTOの動きは理論上今後の新薬の研究を妨げるものにもなりかねないのである。しかしながら既に1年以上も続いているAIDS治療用のコピー薬をめぐる論争を踏まえ、WTOの支援は途上国にとってはありがたいものであるのは明らかだ。

賛否両論ともいえるWTOメンバーの反応を単なる製薬会社対途上国と捉えるのは短絡的かもしれない。ここで忘れてならないことは第一に今回のミーティングが米国のドイツ,バイエル開発のシプロコピー薬議論の最中であり、今回の会議が世界中の注目を集めたことがある。第二に考えなくてはいけないのはコピー薬の輸入又は製造を認めることは南北問題の解決に本当につながるのかということである。特許の保護には論理的な理由があり、例外を産むことは経済のバランスを、もし現状がとれているというのなら、失うことにもなりかねない。

特許 - 論理的な存在価値

論理的には特許や知的財産権とは発明や発展を促すものだという考え方ができる。20世紀始めのドイツの経済学者シューペンターによれば、発明をした人や企業を知的財産権で守ることにより、更なる発展や発明を促し、それによって蓄積される資本が元となり、経済発展につながるという。これは経済発展を資本蓄積からみた場合の見会である。この考えに基づくと新しい技術は、発見や開発に見あう報酬を受け取る権利、すなわち知的財産権を与えられることによってのみ発展するといえる。そして逆にその報酬が保証されなければ資力を新技術の開発に投入することもなく、発展が難しいものになると考えられるのである。

製薬業界は上の報酬に当たる部分が他にくらべてより明らかな産業であると言える。貿易関連知的所有権(TRIPS)によれば、発明や発見はその時点から数えて20年を期限としている。ただ、製薬会社においては'発見の時期'というのが分子が発見されたときをさす。その発見後15年ほどして製品化されるのが常である製薬業界にとっては製品化後約5年間で報酬に当たるものを受け取り、コストを回収するだけでなく次の開発に必要な資本を蓄えなければならないことになる。論理的に追っていくと特許で保護されている薬品が高価であったり、又は多くの人々にとって購入不可能に近い値段、であるのはうなずけることである。

そこで問題になってくるのが'高価すぎる'薬品を販売することが倫理的に正しいかどうかである。途上国と先進国の所得格差を考慮すると、世界中の殆どの人々にとって、特許で保護されている薬品は'高価すぎる'のである。例えば2000年の統計によると、一人あたりの国民総所得はサハラ以南アフリカでは480ドルでこれは先進国の27,510ドルの57分の1にしかならない。その上でAIDSの薬が誰より必要なのは前者なのである。薬品の値段はその薬品を開発した国の所得に合わせて設定される。そしてその値段を世界規模で見たとき、多くの人に手の届かないものになることは明らかである。

ではどうして途上国はコピー薬を製造したり輸入してはいけないのだろうか。発明と開発の激励に話は戻る。もし時間をかけて開発した製品に対して何の報酬や保証も無ければ製薬会社はお金も時間もかかる新薬の開発をどれだけ進めるだろうか。極端な例を挙げれば、製薬特許が仮に無かったら今現在販売されている薬品は存在しただろうか。

アフリカの人命救済とアメリカの炭疽菌対策

コピー薬の問題を今回のWTOで耳にした人は最近の米国で話題になっている炭疽菌用の抗生物質、シプロのことを思い出したかもしれない。米国政府は炭疽菌感染の可能性を考慮して大量 の抗生物質を輸入する意向を発表した後、コスト削減と供給保証の為,コピーバージョンを購入することを考慮していると報道された。これはTRIPSにある例外の項(special circumstances)に基づくもので、国家の安全にかかわる場合の例外として認められることがあるというものである。

この米国とシプロの関係がアフリカとAIDSの薬の関係と似ている点を指摘するのは簡単だ。AIDSやその母子感染の問題はアフリカの多くの国にとって国家の危機であることは事実であるし、世界銀行によれば、サハラ以南アフリカでは19-49歳の人口の8.4%以上がHIVに感染していると予測している。途上国全体で1.2%であることを考慮に入れると、この数字は大変高いものである。

この現状を認識しながらも、製薬会社はアフリカがコピー薬を輸入することを阻止しようとしてきた。昨年にはヨーロッパ系大手製薬会社、グラクソウェルカム(現グラクソスミスクライン)がガーナのコピー薬輸入を阻止したというニュースもあった。その他にも、合計39の製薬会社が南アフリカを相手取ってコピー薬に関する訴訟を起こしたりもした。しかし、AIDSが死因の第一位 であり、また、11%の大人が感染していると言われる南アフリカを支持する声は世界的に広がり、今回のWTOの完全ではないにしても前向きと言える一歩につながったのではないだろうか。

人道的な立場から見れば途上国に対してコピー薬を認める動きは正しいかもしれない。ただ、米国のシプロを巡る特許の問題とアフリカ国家とAIDS治療薬の関係の違いはまだ十分に指摘されていない。知的財産権を軸にその違いを考えてみると、米国の提案には今回の騒動が収束するまでという国際社会に対して信用の置ける終わりが見えた。だがアフリカの件に関しては、いつになればTRIPSの条約に沿えるのかが見えにくい。この違いはTRIPS自体が途上国に対して理解のあるものに変わらない限り、なくならないであろう。

もう一度発見、発明の理論に戻ってみると、この違いの大きさがわかる。特許権の無視が一時的と判っていれば製薬会社も新しい発見をしようという意欲はなくならない。但し、永続的な研究費のただ乗りは製薬会社の開発意欲を減退させる要因にもなりかねない。

今後のコピー薬問題と知的財産権

米国とアフリカのコピー薬の例を比べることである程度、何が問題なのかが見えてくる。国際社会は人道的な面 と今後の薬品開発の可能性の両方を視野にいれて政策を立てなければ長期的に持続可能な政策とはいえない。もしコピー薬を認めるなら、買う側も売る側も時間制限を設けるなりして現実的に守れる約束を交わすべきである。

時間制限を設けることで得られる利益も考えられる。コピー薬を買う側には与えられた期間の中で対策を考えることを奨励することになり、売る側にはその後の企業展開を考える時間が与えられる。期限を定めることで、途上国の側にとっても国家的なシステム-例えばアフリカにおいてはエイズ感染者を減らすなど-を構築する動機づけにもなる。

製薬会社にとっては先月のグラクソスミスクラインがAIDS治療コピー薬の製造を南アフリカに認めたように、現実的な解決方法を模索することが可能になる。コピー薬の何倍もする正規の薬の売上は途上国においては先進国ほどであるとは考えにくいからである。

製薬会社がこれほどコピー薬を嫌うのは今の売上の確保というよりは、今後のためにコピー薬を容認の前例を作る事を避ける意味合いが大きい。期限を定めるなどして、完全なコストのただ乗りを防ぎつつ安価な薬を提供する、というような打開策は時として有効な場合もある。限られた人以外が治療薬の恩恵を受ける為には所得格差の大きい途上国においてこのような対策が必要だといえる。

もう一つの方法として製薬の特許機関を延長することによって、実際に市場に出たときの値段を下げたり、または価格設定をそれぞれの国の所得レベルによって調整することも有効ではないか。特許の期間が長くなれば製薬業界ももう少し長期的な目で緊急事態に対応することも出来るようになるだろう。勿論法的には高価な値段も認められるかもしれないが,高すぎる場合、コピー薬の闇市場が出来ることは必至である。闇市場は法的に定められた値段と所得に大きな差があるときには更に可能性が高くなる。一度闇市場での取引が始まってしまうとその規模や現実を知ることも管理することも難しくなる。そうなれば製薬会社は資材回収好機を逃すことになってしまう。

生命の危機か、企業の危機か

たとえ理論的には可能でも途上国と西側の製薬業界の両方に有益と思われる方策を実現するのは政治的に難しい。南北問題の政治経済はNGO、政府、国際機関、圧力団体や援助金の流れなど、様々な要因に左右され、大変複雑である。例えばAIDS治療薬に関して人道的な面 だけを強調した意見や政策は長期的な目で見て現実的とは言えない。実際に考えなくてはいけないのは所得分配を視野に入れ、本当に必要としている人に薬品が行き届くようにすることである。人道的政策か、特許を守る政策かの二者択一では決してない。

Sources:
BBC World Services (http://www.bbc.com)
Guardian Online Service (http://www.guardian.co.uk)
IDS home page (http://www.ids.ac.uk)
allAfrica.com (http://allafrica.com)
Oxfam homepage (http://www.oxfam.org)
WTO homepage (http://www.wto.org)
Africa Japan Forum web page (http://www.ajf.gr.jp)
World Bank Homepage (http://www.worldbank.org)
(data used in text (GNI per capita, HIV prevalence) are from World Development Indicators of 2000)



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