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Fuji Sankei Business i on the Web 知 的 財 産 サ ロ ン:『フジサンケイ ビジネスアイ』オピニオン面「知的財産サロン」毎週金曜日掲載

2004/4/9紙面掲載
あなたもなれる? 発明長者[6] 特許評価の考え方
トランスファー・プライシングとは-経営や他部門の貢献度を考える
収益は特許だけでは生まれない
(「知財情報&戦略システム」中岡浩)

■研究者だけを特別扱いしない発想■

 研究開発部門だけが企業収益をあげる源泉となっているのではない。企業には製造部門があれば営業部門もある。研究開発部門の活躍によって強力な特許が生まれ、他社に対して排他的な独占的利益が得られるであろうとしても、実際に製品を作る時、また商品を販売する時には、それぞれの部門の保有するノウハウやアイデアがふんだんに折り込まれていって初めて製造、販売ができ、収益をあげられるようになるはずだ。
 例えば、かつてのトヨタのカンバン方式は製造部門の工夫のたまものであろう。残念ながらカンバン方式は特許にはならなかったが、その後開発されたITを使ったカンバン方式ではビジネスモデル特許を得ている。
 またいかに素晴らしい発明であっても、市場は最高レベルの技術を搭載した商品ばかりを受け入れるとは限らない。過去のベータとVHSのビデオ方式での争い、ウインドウズとマッキントッシュのパソコンOSでの戦いの時のように、市場でデファクトスタンダード(市場の大勢を占めたため事実上の標準となった規格)を勝ち得た方が一気に優勢に立つことがおうおうにして生じる。ここには技術開発とは別のマーケットを占有するための企業戦略が大きく左右している。
 製造部門や営業部門においても、いわば特許と同じように知的財産、知的資産があり、それらが収益獲得のために投入されていると考えられる。このため、例え莫大な利益を生む強力な発明が生まれたとしても、様々な部門の知的貢献をもっと収益評価に折り込んでいくべきではないかという考え方が最近提唱されるようになってきている。法律上、研究者に与えられている発明の対価請求権だけを特別扱いしない発想である。

■経営者のリスク負担をどう考えるか■

 かように、発明の背後には、多くの協力者が必ず必要になる。例え大天才の研究者でも、一人では何も成し遂げられないことは、理解しておくべきである。しかし、経営全般から見て収益に対する各部門や各職員の貢献度を精緻に算出することも非常に難しい。
 これをクリアするひとつの考え方に、近年、一部の企業で取り入れられているトランスファー・プライシングがある。これは、部門間で個々異なる活動について、ある共通の基準で引き直して同列上で評価しようという考え方である。管理会計上の要請から、経営者が経費や利益の配賦を各部門に対していかに合理的にかつ戦略的に行うかに利用されている。
例えばABC(活動基準原価計算)などを応用して、投下経費と収益を最適化していく手法である。各部門の職員個々の活動原価を綿密に割り出し、これに各業務の活動内容に応じて難易度や重要度、リスク度などを加味して、全業務の評定基準を作る。これに対して実績を当てはめていく。評定基準は各業務共通のテーブルとなっているので、経費の配賦、賞与や報奨の配賦も合理的に行えるようになる。個々の研究プロジェクトも同様に扱われ、研究者の特別扱い批判も解消する。問題は、基準作りがものすごく複雑で膨大な労力が必要になることである。
トランスファー・プライシングによって、公平で誰もが納得できる評価が実現できると思われる。しかし、一見、突出を嫌う日本人の感覚にマッチした手法に思えるが、逆に職員個々の絶対評価につながりかねないことも承知しておく必要がある。これは、集団的発想を好む従来の日本人の発想とは違った発想であろう。


■強烈だった二百億円のインパクト■

日亜化学工業の青色発光ダイオード訴訟の判決が出た後、発明者を特別視しているのではとの批判も聞かれた。二百億円の発明報奨(補償)を認めさせたことのインパクトは誠に強烈だった。
 この時、巷では「三億円くらいまでなら良いのでは」とか「二百億円も払ったら会社が潰れるのでは」といった議論が交わされた。これらの議論の大半には根拠はなく、皆それぞれが自分の持っている基準や感覚で発言していたに過ぎない。
 しかし知財評価のある著名なコンサルタントでさえ「中村教授はノーブリスオブリージュを知らないのか」と吐き捨てたのには、例え研究者が辛い時期を経てようやく成し得た業績であっても、また現行法下、神聖な法廷で争われた結果の判決であっても、二百億円という数字はかように人の冷静さを失わせるものかと思わされた。
 巨額の報奨金を得るとなれば人の心とは気まぐれなもので、嫉妬も邪推も生まれてくる。本来重要なのは、出た金額の多寡ではなくて、算出のプロセスにあるはずだ。算出のプロセスが正しければ、出た金額は冷静に受け止められるべきだ。
だが青色発光ダイオード訴訟の地裁判決が出た時、貢献度五〇%とか、二百億円いった数字に「なんて大雑把な」と誰もが思ったはずである。
発明の評価算定は、精緻化を求めれば高度な算式が必要になる。しかも、それぞれに前提があり、精緻化したからその答えが絶対に正しいとは言い切れない。また、例え論理的であってもその算式は裁判官さえもが理解不能に陥ることにもなりかねないのである。
 日本人の場合、年功序列制度が長かった影響からか、職場内での鋭いバランス感覚を持っている。発明者の貢献度が大きく認められたならば、すぐに「経営者の貢献度はどうなるの」、「他の社員の貢献度はどうなっているの」といった具合に反応できる。そこで、トランスファープライシングといったような、異部門間においても納得できるような評価手法の確立が期待される。

(「知財情報&戦略システム」中岡浩)


(ミニ用語解説)

◇活動基準原価計算(ABC:Activity Based Costing) ◇

企業における企画、開発、製造、販売などあらゆる活動工程において、どれだけの時間や労力がかかったかを正確に把握し、適正なコストを配分していこうという原価計算の方法。これによって商品やサービスのより精緻な原価が得られる。元々は製造業において人件費などの間接費をいかに見積もるかから始まった考えだが、現在では非製造業でも応用され、人事評価や経営戦略にまで使われるようになっている。




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